田崎の永久機関

 今回はマジメな学問の話である。ナカムラは孫の手についてばかり考えているわけではない。実は最近,熱力学の勉強をしているのである。学生の頃,ナカムラは地球物理学科で学んだのだが,必ずしもすべての授業を理解しているわけではなかった (マイルドな表現だ)。大学院に入ってから,自分の専門のプラズマ物理については一生懸命勉強したが,わからないまま放っておいた他の科目についてはパッパラパーのままだった。
 これではいかん,というので一昨年あたりから教科書を買ってきて,いろいろと勉強している。もちろん,その道の専門家のような深い理解ではないだろうが,ちょっとできる学生が学部の授業で理解している程度にわかればいいと思っている。おかげで,長年疑問だった第二量子化とか,反変・共変ベクトルとかが,なんとなくわかってきたような気がする。そこで,今度はやっぱり長年横目でみながら避けて通り過ぎてきた,化学ポテンシャルとかカルノーサイクルを理解したいと思って熱力学の勉強をはじめたわけだ。

 このような勉強をするときには,いい教科書に出会えるかどうかが重要なポイントになってくる。大学教養程度の物理 ---- 物理に限らないだろうが ---- の教科書にはだいたい2通りあって,それは著者が考えて書いている教科書と,考えずに書いている教科書である。「え〜!? 考えずに教科書なんか書けるの?」と思うかも知れないが,過去の論文や名著といわれる教科書なんかをつぎはぎすれば,教科書は書ける。ときには,(往々にして?) 自分が書いている内容をあまり理解していない著者もいる(注)。
 勉強するには,前者の,考えて書いてある教科書がいいのは言うまでもないことだが,とくに,そういう教科書の中でも,著者が新しい発想から理論の再構築に挑戦しているものだと,読んでまさに「目から鱗がおちる」というようなものがある (失敗作もままあるが)。ナカムラがいままでにいちばん感銘を受けた教科書は今井功著「電磁気学を考える」で,これは感銘を受けたというよりほぼ「感動した」と言ってもよい。「神が電磁気学を設計したもうたときには,こう考えていたに違いない」という内容である。それから,上述の反変・共変ベクトルの勉強をしたシュッツの教科書もなかなかよかった。そして,いま読んでいる田崎晴明著「熱力学:現代的な視点から」もそのような中にはいる一冊であろう。

(注)この業界に入ってびっくりしたのは,たとえば,プラズマ物理でメシをくってます,という研究者のなかで,プラズマ物理の教科書に書いてある程度の基本的な事項を理解していない者の数が驚くほど多い(もちろん,ナカムラもそのなかの一人である)という事実である。これはプラズマ物理にかぎらないと思う。

 実はこの田崎氏の教科書で勉強しようと思ったのは,というか,そもそも熱力学を勉強しようと思ったのは田崎氏のウェブサイトを見たからである。どういう経緯でここに流れ着いたかは,もはや忘却の彼方だが,読んでいきなりファンになってしまった。とくに日々の雑感のページは硬軟とりまぜた話題でめっぽう面白い。物理関係に興味のある人はもちろん,それ以外でも一度のぞいて見ることをおすすめします。他にも研究者がネットワーク上で日記のような文章を公開しているのはときおり見かけるが,たいていは「ああ,偉い先生が難しい研究をなさっておるのだなあ。」という程度の感慨しかわかない。それにくらべて,ナカムラがこのページを好きなのは,たとえば,ここのJavanainenここのJavanainenの連続攻撃 ---- なかなかのチカラワザである ---- のような一面もあわせもっているところである。やるなあ。(もちろん,真面目な部分も好きです。)

 で,今回はそのページのなかで見つけた永久機関の話。永久機関というのは熱力学の基本法則で存在が否定されているので,議論のどこかに落とし穴があるはず,つまり田崎氏はわれわれに謎かけをしているのだが,これがなかなかわからない。ナカムラは一生懸命考えた (田崎教科書で勉強しながら考えるのだから,泥縄式ですね)。そして,ついに解決した! しかも,単に解決しただけでなく,奇想天外な方法で解決したのである。フェルマー流に言えば「わたしはこの永久機関の真に驚くべき解決をもっているが,htmlでは数式に書けないので,ここに記すわけにはいかない」というところであろう。で,フェルマーのように,後生のひとびとが困るといけないので(?)ここにpdfファイルとして書いておこう,と思った次第である。

 それから,一日とちょっとくらい,「いやあ,俺って頭いいなー,こまっちゃう」と思っていた間は幸せであった。だけど,やっぱり間違っておりました,田崎さん,ごめんなさい,まだ修行が足りませんでした。Life is a bitch, sometimes。でも,このニセ解決に使った論法って,実は使えるんじゃないかしらん?(注) 運動量保存だとあんまり面白くないけど,角運動量だとなかなかオイシイかも。たとえば,天体の降着円盤みたいな,角運動量が保存する系の熱力学なんか,いいかも知れない。少なくとも温度異方性のあるプラズマには使えそうだ,また怪しげな論文のネタができたかな? ということもあって,上に書いたようにpdfファイルでニセ解決を公表します。以前に書いたパラドックスとかと同趣向のものとして楽しんでいただければ幸いです。「田崎の永久機関」については・・・うーん,まだ修行が足りない。

(注)しかし冷静になって考えると,JaynesのME原理とかから考えて,あたりまえのことかもしれない。実はよく知られた話なのだろうか? それともどっか間違ってる?

附記(4/2):その後,つれづれなるままに,Jaynesの原論文を読んでみると,ちゃんと書いてありましたね。

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2001/03/02