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ちょっと前に,とある書店の楽譜売場にいったら棚が「邦楽」「洋楽」と分類されていた。「洋楽」とかっていう単語を久しぶりに見たような気がする。そういえば,「歌謡曲」っていうのはもう死語になったのだろうか(注)。ナカムラが小中学生のころは,(1970年代なのだが)学校のクラスの男どもはだいたいみんな歌謡曲を聴いていて「天地真理 vs 浅田美代子」みたいな話題で盛り上がっていた。もちろん女の子は女の子で西条秀樹とか郷ひろみとかがアイドルだったわけである。そんななかで,クラスに2人か3人くらい「ビートルズ vs ローリングストーンズ」みたいなスカしたやつらがいて,「歌謡曲なんてガキむけの音楽なんか聴けるかい」と,ちょっと気取って「洋楽」を聞いていたように思う。 (注)貴地久好,高橋秀樹著「歌謡曲は,死なない」って本にこの辺の考察があります。おもしろかったです。
そんな曲のなかで,「カリフォルニアの青い空」というのもありましたね。この曲の出だしは「Seven fourty sevenにのってカリフォルニアにやってきて・・・」っていう内容だったと記憶しているが,「Seven fourty seven」とは,ボーイング747のことである。さらにナカムラの記憶が正しければ,ナカムラの友人の洋楽派の岩本君が,この歌を歌っていた憶えがあるので,岩本君(いまごろなにしてるんでしょうね)とナカムラが同じクラスだった1972年には,もうこの曲はあったはずだ。 工業技術というのは常に着実に進歩し続けていて,今年の製品は確実に去年のよりよくなっている,という漠然とした信念がわれわれにはあるが,実は個々の製品をみてみると,ある時期に技術的に完成されてしまって,それ以降は「おまけ」の機能みたいなものが充実しているだけで,本質的には進歩していないというものが多い。40年前の扇風機を今使っても,とくに不便はないでしょう? あるいは,自動車なんかもオートマチック車が開発されて以降,電気自動車を別にすれば本質的な進歩はない。いま,あなたの乗っている日産マーチが,あしたから1965年製のフォルクスワーゲンビートルに替わっても,(ビートルがちゃんと走るかぎり)なんの問題もないはずだ。排気ガスは問題かな。
あたらしい工業製品が市場にではじめたころは,毎年あたらしいモデルが出る度にどこかしら本質的な改善がなされて,ユーザーは「ああ,便利になったものよ」と感心するのだが,ある時期を境に,その進歩は止まってしまう。みなさんの多くが最近体験したのはコンピューターであろう。1990年ごろまでは,新しいマシンは,旧モデルよりも圧倒的に有利だった。液体金属ターミネーターとシュワルツネッガー型のターミネーターみたいなものだった。また,ソフトウェアもどんどん便利になっていっていて「おお,今度のワープロは図までかけるぞ!」などと感心したこののある方も多いだろう。
で,Windowsとボーイング747の本質的な違いはなにかというと,それを買う人間が素人かプロかということだろう。アラブの石油王ででもないかぎり747を個人で買うやつはいない。航空会社の専門の人間がいろいろ吟味して買うわけで,彼らはプロなので,本当に必要なものはなにかをよく理解している。それに対して,パーソナルコンピューターのソフトウェアはわれわれのような街のおっさんがよく調べもせずに買う場合が圧倒的に多い。
つまり,一般素人を相手に商売をする場合「新製品が前より良くなっている」という幻想を延々と続けなくてはならないのである。少年ジャンプの漫画で,新しい敵をどんどん強くしていかなくてはならないようなものだ。「驚羅大四狂殺」よりも「大遺震八連制覇」のほうが,そして「大遺震八連制覇」よりも「天頂五輪大武会」のほうが,はるかに悪くて強い敵を用意しないと読者にあきられてしまう。 (注)ところでナカムラは前々から疑問なのだが,深く剃れるカミソリってなにがうれしいのだろう? CMで「今朝剃ってきたところなのに,まだ,こんなに剃れます」みたいなのがあるが,だからどうだっていうんだ? どうせ,次の日の朝にはまた髭を剃るわけで,その時までに無精ひげが顕著になりさえしなければ,どうだっていいと思うのだが。 さて,ここで,ナカムラが自分の業界をふりかえって鑑みるに,このような「無限に進歩する幻想」は科学研究の場合にもやっぱり存在する。大学や研究所の研究者というのは,とくに基礎研究の場合,「以前とくらべて,こんなに研究が進歩しましたよ」とアピールすることによって,予算をとってきたり,出世したりするわけである。また,個人の研究者レベルではなく,あるひとつの研究分野でも,そこが活発に進歩しているという幻想を外部にあたえることが,分野全体の存亡にかかわってくる。だから,「プラズマ物理の理論は1970年以降,本質的に進歩していない」なんてのは「実は歯ブラシの効率は昔と較べてそんなに変わってません」というのと同様,こんなウェブサイトなんかにおいそれと書くわけにはいかない,書いてるけど。これってプラズマ物理にかぎらず,かなりの分野で同じようなもんだと思うけど,どうです,他の分野の方々?
でも,そうやって「進歩幻想」売って生きていくのって,本質的にかっこわるいですよね。歯ブラシの場合はそれでも売れて企業収益があがればいいんだろうけど,ナカムラのような公務員研究者は,直接自分の利益につながったりしない。だから,もっと本当に進歩していると感じられる仕事をしたいと思うのは自然なことだろう。じゃあ,どうするのか? 多分,新展開を探すのが正しい道だと思う。たとえば,ガソリン車の技術はもう進歩しなくても,電気自動車なんかはまだ未知の領域のはず。あるいはパーソナルコンピューターはもう行き詰まっていても,
携帯電話のコンピューター的用途はまだまだ発展途上だ。今の携帯電話の新機種って確実に前のより強力になってますよね,入力にPOBoxが使えるようになったりとか。
短信:(本文とは関係ないです)
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2001/04/13